【現場レポートvol.02】Onpuma 多言語・手話融合劇が描く「共に生きる」未来
2025/11/14
─ Onpuma新作『How to Make a Love Song』取材レポート ─
2025年10月、東京・台東区のSOOO dramatic!で上演された舞台作品『How to Make a Love Song』は、観客の心に深く問いかける作品となった。日本語、英語、中国語、スペイン語、そして手話が融合するこの舞台は、言語や文化、障がいを越えて「共に生きる」ことの意味を探る。

この作品を手がけたのは、Onpuma。代表の奥田祐さんは「言葉が通じなくても、心が通う瞬間がある。それを舞台で描きたかった」と語る。パンデミック期にオンラインワークショップを通じて舞台芸術の可能性を探り、文化庁在外研修員(演劇部門)として渡米しニューヨークでの研修を経て、帰国後初の新作として本作を立ち上げた。
奥田さんは「この作品を海外に持っていきたい。現地で使われる言語やコミュニケーション手段をメインにし、それに対応できる俳優と組むことで、どの国でも実施可能なフォーマットになる」と語る。結婚式という普遍的なシチュエーションを軸に、言語の配置を逆転させることで文化的な面白さも生まれるという。ここで重要なのは、手話も言語のひとつであり、特別なものではないという視点だ。

構成台本を担当した須貝さんは、奥田さんの「離れた場所にいる人たちが、なぜかラブソングを作っていく。そして結婚式でそれを披露する」というアイデアを受け取り、わずか数日で本編を一気に書き上げた。稽古中には俳優やスタッフからの意見を取り入れながら、言語の壁を越えた物語を練り上げていった。
制作現場では、翻訳を出演者自身が担い、約2週間で各言語への調整が進められた。奥田さんは「さまざまな言語を取り入れたいという設定の共有から始まり、手話も入れたら面白いという話し合いを経て、全体を本にしてくれた」と振り返る。
キャスティングは「日本語が話せなくてもいい」という条件で行われ、多様なバックグラウンドを持つ俳優が集まった。ろう者でミュージカルなどでも活躍する中嶋元美さんは、東京2020パラリンピック開会式でのパフォーマンスの経験を持ち、制作スタッフの紹介で参加。「手話を“言語”として等しく扱ってくれることが嬉しい。聞こえない人の芝居ではなく、手話という言語を使う人として参加できることに魅力を感じた」と手話で語る。

中嶋さんはまた、観客としての視点も持つ。「字幕がないと観に行かないこともある。内容を知っている作品なら観るが、初見では不安」と語り、鑑賞サポートの重要性を強調する。字幕表示や多言語スタッフの配置など、Onpumaは観客が安心して参加できる環境づくりに力を入れている。
作品の構成には、字幕が「ただ出る」のではなく、「出ることの意味」が込められている。奥田さんは「字幕が出る良さを作品に取り込めたらいい。通訳するだけではなく、意味のある作品にしたい」と語る。須貝さんも「同じ脚本でも、別の人がやればまったく違うものになる。どうやってこの場を作るかが重要」と、多様性のある集まりの力を強調する。

充実した環境の裏には主催者としての負担もある。この作品の制作・上演には、東京芸術文化鑑賞サポート助成が活用されている。東京都歴史文化財団アーツカウンシル東京によるこの助成制度は、多様な芸術文化団体による鑑賞サポートをはじめとするアクセシビリティ向上の取組を後押しする。「今後も可能であればこういった制度を有効に活用させていただきたい。」と奥田さんは語る。

公演を楽しまれた観客の方からは「舞台上では日本語・英語・中国語・スペイン語と手話が飛び交い、すべては分からないけれど『伝わる』という体験をしました。字幕があったことで、場面の流れやニュアンスをしっかり追えたのも良かったです。観客も劇に参加し、一緒に歌い、一期一会を楽しむ中で、人と人とのつながりって奇跡だな…と少し泣きそうになりました。」といった声も寄せられた。

『How to Make a Love Song』は、舞台芸術が持つ「創り手と受け取り手の空間・時間共有」という力を最大限に活かした作品だ。言語や文化の違いを乗り越え、誰もが安心して参加できる舞台を目指すOnpumaの取り組みは、今後の舞台芸術のあり方に一石を投じるものとなったのではないだろうか。
