【現場レポートvol.06】「すべての人に映画を届けたい」——田端の小さな映画館の想い
2026/02/20
多様な人々と共に鑑賞するユニバーサルシアター
東京・北区東田端の商店街にある座席数最大20席の小さな映画館CINEMA Chupki TABATA。上映回すべてに日本語字幕とイヤホンによる音声ガイドを常設し、だれもがいつでも安心して映画を楽しむことができるユニバーサルシアターだ。
「すべての人に映画を届けたい」──その揺るぎない想いをもって、鑑賞サポートツールを特別な回だけでなくすべての上映回につけている映画館の運営を手がける合同会社Chupki(以下、Chupki)の在り方は、鑑賞体験を身軽なものへと変えるきっかけを広めながら、同じ作品を多様な人々と共に鑑賞することにより、よりよい共生社会の形成を目指している。


「いつでも、ふらっと」——常設化に踏み切った理由
代表の平塚千穂子さんは、2001年からボランティア団体を立ち上げ、視覚障害者の映画鑑賞をイベント形式で支えてきた。しかしイベントは、その日限りの体験に留まる。もっと当たり前に、もっと日常的に、「ふらっと来て、当たり前に映画を楽しめる場所をつくりたい」という思いが強まるなかで、映画の鑑賞サポート環境を整えるためには映画配給会社と継続的に連携できる仕組みづくりが不可欠だと考え、映画興行主として、常設館設立に踏み切った。
2016年以降、Chupkiは、視覚障害者だけでなく、様々な理由から映画館に行くことにハードルを感じている方に向けて、上映全作品に日本語字幕と音声ガイドを導入し、車椅子スペースや親子鑑賞室を設置。来場者からは「いつ来ても、どの作品でもサポートがある」という安心感が支持され、リピーターも着実に増えているという。
専用機器を使わず、全座席に搭載されたイヤホンで利用できる音声ガイドは、視覚障害者に限らず、聞こえに困難がある方など多くの来場者にとって作品理解を助ける鑑賞サポートツールとして機能している。




次の世代につなぐ──きっかけづくり
Chupkiは、ガイドが付いていないクラシック外国映画を中心に音声ガイドの制作を独自に行っている。また、教育現場との連携にも力を注ぎ、各地の学校で音声ガイドを教材として用いた授業等を重ねてもいる。平塚さんは、「映画を鑑賞し、その上で対話することにこそ教育的な意味がある」と考えているという。
さらに、2025年には、7年ぶりに音声ガイド台本制作講習会の実施を再開し、人材育成と技術継承にも励みつつ、バリアフリー上映をだれもが日常的に利用できる環境を守ろうとしている。

2025年、デフリンピックを見据えた挑戦
「東京2025デフリンピック」を前にChupkiは、「東京芸術文化鑑賞サポート助成」を活用した3つのプログラムを実施した。

10月に、ダイバーシティ映画『ふたりのまま』の聴覚障害者モニターを入れたバリアフリー字幕制作と、『ジェンダー・マリアージュ』との同時上映、手話通訳を入れた字幕制作者のトークイベントを開催。
続いて11月には、“デフスポーツ”“ろう文化”をテーマにした特集上映「デフリンピック応援!Deaf CINEMAリレー」を展開。上映作品には『みんなのデフリンピック』『アイ・コンタクト』をはじめ、『ぼくが生きてる、ふたつの世界』、『私だけ聴こえる』、『こころの通訳者たち』(Chupkiが製作・配給の映画作品)など、デフをテーマにした社会性と感情が交差する作品が並んだ。さらに、“言語”をテーマにした河合健監督作『みんな、おしゃべり!』の「ユニバーサル上映 de みんなとおしゃべり!」と題した鑑賞会とトークイベント、手話通訳付きの感想シェア会を開催した。一連のプログラムに通じているのは、当事者起点で鑑賞を設計する姿勢である。様々な接点を作ることで、観客同士の反応が交差し、作品の受け止め方が深まっていく。その手応えを、次の取組への挑戦へとつなげていく。
感想シェア会が映し出した「わからなさ」と「つながり」
12月21日に行われた映画『みんな、おしゃべり!』上映後の感想シェア会で、本作監督の河合健さんは、自身がCODA(ろう者の親をもつ聴者)である経験から、「わかったつもりになる危うさ」や「通じない感覚を映画に刻んできた」と語り、手話言語と音声言語の間に立つCODAの葛藤を映し出す本作で、「理解よりも共有を重ねることで、人と人の関係が立ち上がる瞬間を描いた」と話した。
プロデューサーの小澤秀平さんは、作品づくりにおいて「すべてを説明し切らない」ことを意識したと話す。「観る人それぞれが異なる立場や身体感覚で受け取る余白を残す」ことが本作の対話性を支え、「スクリーンを介して他者と時間を共有する体験そのものを大切にしている。この映画は映画館で観ることで完成する」と語った。

左から、Cinema Chupki TABATA代表 平塚さん、監督の河合さん、プロデューサーの小澤さん
感想シェア会には、手話通訳と音声認識による文字通訳システムを初導入し、異なる文化、言語をもつ様々な人と語り合うユニバーサルな場が設けられた。参加者からは、
「字幕や音声ガイドがあることで、聞こえにくい人、見えにくい人と同じ場で笑えるのが新鮮だった」
「“話せばわかる”が必ずしも真実ではないと気づかされた」
「補聴器を使っていても“聞くこと”自体が負担になる。字幕が意味を補ってくれた」
「異なるコミュニケーション手段が交錯する瞬間に胸が熱くなった」
といった声があがった。

劇場鑑賞の価値——これからのChupki
配信やDVDでの鑑賞が当たり前になった今だからこそ、Chupkiが大切にしているのは「劇場で体験する」ことの意味である。多様な観客が同じ空間に集い、同じ作品を共有する。誰かの笑い、隣の観客の身じろぎ……場の空気や感情の揺れを共にする劇場での鑑賞体験は、個人鑑賞では得がたいもの。そして、映画を通して「よりよい共生社会を考えるきっかけをつくっていく」——それがChupkiの目指す次のステップだ。Chupkiの挑戦は続く。”一緒に観て、一緒に語る“という原点を磨きながら。
