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 【現場レポートvol.01】阪急電鉄株式会社(宝塚歌劇)~「すべての人に開かれた舞台」へ~

2025/11/04

宝塚歌劇が進める鑑賞サポートの現在と未来
 阪急電鉄株式会社(東京宝塚劇場)

Ⓒ宝塚歌劇

宝塚歌劇は、「老若男女、幅広いお客様にご覧いただきたい」という理念のもと、鑑賞サポートの充実に取り組んでいる。2025年度には、東京芸術文化鑑賞サポート助成を活用し、東京宝塚劇場月組公演 三井住友VISAカード ミュージカル『GUYS AND DOLLS』において、聴覚障害者や聞こえづらさを抱える観客に向けた新たなサポートを試験的に導入した。

宝塚歌劇は、「老若男女、幅広いお客様にご覧いただきたい」という理念のもと、鑑賞サポートの充実に取り組んでいる。2025年度には、東京芸術文化鑑賞サポート助成を活用し、東京宝塚劇場月組公演 三井住友VISAカード ミュージカル『GUYS AND DOLLS』において、聴覚障害者や聞こえづらさを抱える観客に向けた新たなサポートを試験的に導入した。また、出演者のセリフ等の文字情報が閲覧できる鑑賞サポートタブレットの貸し出しサービスも継続的に提供されている。

劇場にて貸し出している鑑賞サポートタブレット(左)と聴覚補助機器(右)

このタブレットは宝塚大劇場(兵庫県)と東京宝塚劇場(東京都)の両劇場で、2025年は1月から10月までに約200件の利用があり、1作品での貸出が東西の劇場併せて40件をこえるものもあるという。文字情報にはセリフだけでなく効果音やコーラスでの歌唱内容なども記載されており、音の情報が得られない観客にとって、舞台の流れを把握する重要な手段となっている。

鑑賞サポートの受付などを行う劇場1階ご案内カウンター

視覚障害者への対応としては、サピエ図書館(視覚障害者向けの音声・点字図書を提供するインターネット図書館)での公演プログラムの音声提供が行われている。出演者情報や場面の概要を音声で取得できる仕組みは、劇場に足を運ぶ前の情報保障として機能している。また、宝塚歌劇公式サイトにはバリアフリー情報ページが設けられ、スロープの有無や、館内レストラン(宝塚大劇場)や喫茶コーナー(東京宝塚劇場)のテーブルの高さなど、来場前に確認できる情報が写真付きで掲載されている。

こうした取り組みの背景には、宝塚歌劇が「誰もが安心して来られる劇場」を目指す姿勢がある。阪急電鉄株式会社 歌劇事業部長・栗原良明氏は、取材の中で次のように語った。

「1回の公演で2000人を超えるお客様が来場される劇場ですので、障害の有無等にかかわらず、すべての人が安心して来られる劇場でありたいと考えています。高齢の方や補聴器を使っている方、車椅子をご利用の方、そして熱心なファンの方々——それぞれが抱える事情や、宝塚歌劇に対する期待を受け止めることが求められています。」

栗原氏は、鑑賞サポートを「単なる補助ではなく、劇場文化の未来を支える基盤」と位置づける。新しいサービスを導入すれば、次は「もっとこうしてほしい」という声が届く。それは、観客が劇場に期待を寄せている証でもあるという。

「特別な機材ではなく、誰でもどこでも使えるものを活用することで、他の劇場でも真似してもらえるような仕組みを意識しています。真似されることは、むしろ歓迎です。」

宝塚歌劇では、劇場での公演だけでなくライブ配信やオンデマンド配信、映画館でのライブビューイングなど多様な鑑賞形態を展開している。現状では、そのすべてに対してサポートの提供がなされているわけではないが、それぞれに応じたサポートのあり方を模索している。最近では、舞台挨拶のリアルタイム文字起こしにはUDトークを活用、事前に単語登録を行うことで精度を高めるとともに、劇場だけでなく、ライブ配信視聴者にも同様の情報を届ける工夫がなされている。

「“いつ行ってもサポートがある”ということをなんとか実現するために、公演の初日からサポートを提供できるよう、制作過程で生まれるデータや成果物を活用して、スピード感を重要視して準備しています。」

栗原氏の言葉には、劇場を訪れるすべての人へ、どのようにして公演を届けるかという問題意識がうかがえる。宝塚歌劇の鑑賞サポートは、単なる技術的支援にとどまらず、劇場のサービスのあり方そのものを問い直す試みでもある。誰もが安心して芸術文化に触れられる社会の実現に向けて、その歩みを着実に進めている。

お話いただいた阪急電鉄株式会社
歌劇事業部長栗原良明さん、歌劇事業部東京宝塚劇場担当荒井美帆さん