【現場レポートvol.03】感情は一つじゃない――ゴジゲンが挑む、演劇とアクセシビリティの未来
2025/12/26
momocan / ゴジゲン 鑑賞サポート付き公演レポート

演劇の現場に、アクセシビリティの新しい風が吹いている。劇団ゴジゲンが第20回公演「きみがすきな日と」で試みたのは、字幕や手話通訳、機器貸出といった鑑賞サポートの導入だ。公演後のインタビューで、作・演出を担った松居大悟氏と制作に携わったmomocan半田さんが、その背景と課題、そして未来への展望を語った。
アナログな表現を愛する――人形劇という選択
SNSや配信、AIが生活に浸透する時代に、なぜ人形劇なのか。松居さんはこう語る。
「演劇ってどういう立ち位置だろうと思った時に、すごくアナログな表現を愛したいと思った」
作品のテーマは「商店街の人形劇」。現代社会特有のSNS上の「炎上」やダークな側面を要素として取り込みつつ、地元の小さな祭りに寄り添う人形劇をモチーフにすることで時を経てなお輝きを失わない「愛すべきアナログな表現」を際立たせた。NHK「おかあさんといっしょ」で人形劇の原案・脚本を手がけている松居さんは、片手で扱えるパペットを採用し、素人でも挑戦できる演出を試みた。

字幕導入の背景――映画から舞台へ
鑑賞サポート導入のきっかけは、演劇を中心に鑑賞サポートを始めとするアクセシビリティの向上に取り組んできた半田さんの提案だった。
「松居さんが監督する映画でバリアフリー日本語字幕を付与してきていたので、舞台でも挑戦したいと思った」
昨年度は台本貸出を実施し、今回は東京芸術文化鑑賞サポート助成を活用してバリアフリー字幕を導入。受付では字幕表示用の機器貸出案内を明示し、手話通訳を配置しての来場者対応を試みた。これらの鑑賞サポートは公演日程の後半に実施され、利用者からは「字幕のおかげで内容がわかるのは嬉しいし、私にとっては遠い遠い、 実に遠かった演劇鑑賞が増えていることに生活に少し彩りしてくれているなと思いました。」「観てよかったなと思える演劇でした。また機会があったら観たいなとも思いました。」といった反応があった。また出演者が終演時に「ありがとう」の手話で挨拶するようになるなど、演じる側の意識も高まったという。

普及の壁――どう越えるか
―鑑賞サポートを普及させるために、何が必要で、何が不足しているのか―
半田さんは率直に答える。
「鑑賞サポートを実施しても利用者が少ないのが課題。ろう者のコミュニティでは演劇を観る習慣が浸透しておらず、娯楽として楽しめるものという認知がまだないようだ。こちらから会いに行き、情報に接する機会や体験の場を設ける必要がある」
松居さんも続ける。
「映画を見るような感覚で演劇にアクセスできるよう、敷居を下げたい。SNSや公式サイトで現場レポートを発信し、演劇そのものの認知を広げていく必要があるのかなと」
「来場に伴う生活負担や費用面のハードルも無視できない。こうした障壁を取り除くためには、制作者側から積極的にコミュニティへ歩み寄り、対話と体験機会を設計していければいいのですが」
また、半田さんは鑑賞サポートの導入コストと制作にかかる負荷を課題として挙げる。
劇場側が鑑賞サポートに必要な資機材を常備することは、公演等主催団体側の導入コストの低減につながる可能性があるほか、規模の小さな団体ほど限られたリソースを字幕や音声ガイドのソフト制作に集中しやすくなるメリットがあるという。
一方で、日進月歩の技術進歩に対応した機器類の導入及び更新に要する費用の負担や、バリアフリー音声ガイドなど小劇場を中心に構造的制約から導入そのものが難しい場合もあり、劇場側の環境整備頼みの普及の難しさも垣間見える。
「普及の壁」は、公演等主催団体と劇場において、また鑑賞サポートの試行的導入からニーズに対応した拡充、それらの安定的かつ継続的な運用に至る各フェーズにおいてそれぞれ異なり、刻々と変化する。解は一つではない。これらを支援する公共セクターや鑑賞体験を嘱望する多様な主体と協働し、眼前にある壁の一つひとつを解消する座組の最適化を図る必要がある。

期待効果――広がる未来像
鑑賞サポートの導入は単なる技術的な対応ではない。文化の裾野を広げる挑戦である。コミュニティ連携による来場者増加、利用者からのフィードバックを受けての改善――これらが連鎖し有機的に作用し合いながら持続的に循環することによって、演劇はより開かれたものになる。松居さんのコメントにもあるように、映画を見るような感覚で演劇を楽しめる環境が整えば、新しい観客層の開拓にもつながる。
文化的意義――「生」の体験を誰にでも
舞台芸術は長らく愛好者に支えられてきたが、様々な制約によってその鑑賞体験がもたらす感動を共有できない人々がいた。今回のゴジゲンの試みは、そうした壁を取り払い、演劇をより開かれたものにする第一歩だ。演劇は「生」であるがゆえに、観客との距離を縮める努力が求められる。その努力が積み重なった先に、誰もが同じ空間で様々な感情を共有できる未来がある。

松居さんのメッセージ――感情は一つじゃない
インタビューの最後に、松居さんはこう締めくくった。
「感情は一つじゃない。隣の人が笑っていて、自分は泣いている。そういう場を作りたい」
演劇の価値は「アナログ性」と「多様な感情の共存」にある。その価値に誰もが共感できるその時まで、アクセシビリティの挑戦は続く。
