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【現場レポートVol.08】東京盲ろう者友の会のみなさんと歩く江戸東京たてもの園

2026/03/06

江戸東京たてもの園は自然豊かな都立小金井公園にあります。江戸時代から昭和中期ごろまでの人々が生活をし、商いをしていた歴史的建造物を移築し、そのたてものの中には生活していた当時の様子がうかがえるように生活用具も展示しています。来訪者はまちを歩くように見学し、もちろんたてものの中に入ることができ、そして四季折々の自然の変化も感じられる野外博物館です。今回は、このたてもの園で行われた学習会の様子をお伝えします。

東京盲ろう者友の会の学習会

11月11日、たてもの園に東京盲ろう者友の会の学習会に参加するみなさんをお迎えしました。東京盲ろう者友の会は、都内に住む視覚と聴覚の両方に障害のある盲ろう者の方々を支援する団体で、盲ろう者の方向けの交流会や学習会が毎月たくさん開かれています。この秋、ひとつの学習会を東京都とアーツカウンシル東京が担当し、芸術文化を身近に感じ、楽しんでいただくことをお伝えしてきました。その第2回学習会が今回のたてもの園訪問です。

江戸東京たてもの園の見学スタート

集合時間に合わせて、学習会参加のみなさん、コミュニケーションと外出時の同行をになう通訳・介助者のみなさんがビジターセンターにいらっしゃいました。席に着いて簡単な説明を聞いたあと、いよいよ見学がはじまります。まずは、たてものの触察模型(触る模型)からです。実際の園内は広く、たてものは大きく、全体の様子や上から見た様子などの把握は難しいですが、小さなサイズになった模型は、園内やたてものを俯瞰したり、触ることができます。ここでは、これから実際に足を運ぶ銭湯や茅葺き(かやぶき)屋根の家のたてものの模型や間取り模型を触ったり、スタッフに質問したり、それぞれに時間を過ごしました。そして、広い園の全体模型を確認したあとに、いよいよたてもの園のスタッフと園内へ出発です。

写真:参加者がビジターセンターにあるスペースで椅子に座って、スタッフの説明を聞いている様子
写真:横幅2メートルぐらいのたてもの園全体の触察模型を確認する参加者の様子

江戸時代の農家の囲炉裏と昭和の銭湯

今回のたてもの園のツアー内容についてスタッフは数か月前から準備してきました。盲ろう者のみなさんにどのようにしたらたてもの園を楽しみ、江戸や昭和の生活に触れていただけるかを考え、広大な敷地の中の30棟のたてものや展示物の中から見学先を絞ることから始まりました。最初に決まったことは、秋が深まる11月の午後の開催でもあることから、茅葺き屋根の農家の天明家(てんみょうけ)で、火を焚いた囲炉裏端を囲み、煙を感じるなかで昔の農家の暮らしについて学びを深めること。ほかにも、ポンプで井戸から水を汲むこと、都電の車両なども候補となりました。準備にあたっては、研究者でご自身も盲ろう者の方に来園いただき、盲ろう者についての基本的なことをスタッフが学び、実際に園内を回って検証する機会も設けました。その結果、今回はそれぞれの方のコミュニケーション方法でスタッフの説明を聞いたり、質問をしながらゆっくり楽しんでいただくことを優先し、囲炉裏のある「天明家」と昭和の銭湯「子宝湯」の二つとなりました。

銭湯「子宝湯」で知る昭和の暮らし

銭湯「子宝湯」に到着。みなさん、ビジターセンターで子宝湯の模型を確認していたこともあり、たてものに入る前から、触手話や手話などそれぞれの方法での会話がはずみます。靴を下駄箱へしまい、脱衣場を抜け、タイルの床の浴室、浴槽へと進みます。

写真:子宝湯の前でスタッフが参加者にむけて説明している様子

「お風呂のない家が多かった時代でしたので、多くの人が利用できるようにと浴槽は立ったままでも入れる深さなのですよ」という説明を受けると、みなさん興味津々。気を付けながら深い浴槽へ入ってその深さを実際に体験している方や、浴室のタイルなどに触れる方、当時の生活の様子を伝える脱衣場の展示品や壁の装飾から、若いころの思い出を懐かしむ方もいらっしゃいました。

写真:手前は子宝湯の深い浴槽の説明を受けている人、奥の浴槽には立ったまま入っている人の様子
写真:子宝湯の脱衣場で参加者がスタッフの説明を聞いている様子。右にはベビーベッド

江戸時代の農家の暮らしの体験

外を歩きすこし肌寒くなったころに天明家のあたたかい囲炉裏がみなさんを迎えました。囲炉裏端を囲み、スタッフから煙が茅葺き屋根を乾かし防虫の効果もあることなどの説明があると、先ほど触った茅葺きの家の模型の屋根を話題にしながら、「なるほどね」、「煙がこうして屋根に上がるんですね」という声も。車座になり火を囲むとなぜか会話が弾み、気持ちものんびりするようでゆったりとした時間が過ぎていきました。
農家の家の入口には立派な敷居があり大きく跨がねばならず、土間から部屋に上がるのも段差があり、出入りにも一苦労でしたが、こうしたひとつひとつが江戸時代の暮らしを垣間見るひとつのきっかけとなったかもしれません。

写真:天明家の囲炉裏を囲むように参加者が座り、たてもの園スタッフと話をしている様子

それぞれの方にとってのたてもの園

ビジターセンターに戻り、参加されたみなさんから感想や今後への期待をうかがいました。「浴槽の深さがすごかった」「囲炉裏のあたたかさが忘れられない」「触る模型があったので安心して歩けた」という感想とともに、「ほかにもたてものがあると聞いたのでまた来たい、また開催してほしい」というお声が多く寄せられました。また、「子どもが小さいときに、紙芝居を聞かせによく連れてきていた」という家族のお話を聞くこともできました。

写真:ビジターセンターにもどり椅子に座り、感想を参加者全員で話している様子

天明家を出たところに、茅葺きの材料でもあるススキが植えられています。参加者のひとりが、そのススキに触れ、茅葺きのイメージができたと話されていました。こうしてたてもの園をめぐると、かつての暮らしが豊かな感覚に溢れていたことに気づかされます。たてものごとに、におい、触覚、空気、音の響きなど、それぞれが場所ごとに違った表情を見せることを再認識します。次に盲ろう者のみなさんが来園するときには、障害の有無にかかわらず、あらゆる人がもっと楽しみや学びを感じられる博物館となっていることへの期待が寄せられていると強く感じた学習会の一日でした。


だれもが芸術文化を楽しむことができる環境へ
 アーツカウンシル東京 事業部 駒井由理子

オールウェルカムTOKYOの2025年は、都立文化施設(東京都江戸東京博物館、江戸東京たてもの園、東京都美術館、東京都庭園美術館、東京都写真美術館、東京都現代美術館、トーキョーアーツアンドスペース、東京都渋谷公園通りギャラリー、東京文化会館、東京芸術劇場)にとってとても重要な年でした。

2021年から、乳幼児から高齢者まで、障害の有無や、言語・文化の違いを超えて、誰もが文化施設やアートプログラムと出会い、参加しやすいように芸術文化へのアクセシビリティ向上に取り組むプロジェクトである「クリエイティブ・ウェルビーイング・トーキョー」を推進してきました。そして、2023年から、アーツカウンシル東京と都立文化施設は、3つのステップでだれもが芸術文化を楽しむための環境整備に取り組みました。

3つのステップとは、まだ、芸術文化に出会えていない方やいらしていただくために必要な<情報の環境整備>
いらしていただいて芸術文化を楽しむ際に必要な<鑑賞の環境整備>
そして、ともに整備を考えたりアーティストとして活躍していただくための<参画の環境整備>

この計画の最終年が、オールウェルカムTOKYOの年でもある2025年です。この3年間で多くの方と出会い、お話を伺うことができました。今回のレポートでは、すべての取組を紹介することはできませんが、伺ったお話をいかしながら、すべての施設や事業で、だれもが芸術文化に触れることができるよう整備しています。

ここで終わりではありません。このあともクリエイティブ・ウェルビーイング・トーキョーのプロジェクトは続き、文化施設や芸術文化が、人とのつながりや、それぞれの方にとっての心地のよい居場所と感じていただけるよう私たちは取組を続けていきます。迷っている方もぜひいらしてください。また、動画コンテンツもありますのでぜひご覧ください。みなさまとお会いできるのを楽しみにしています。