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【現場レポートVol.09】東京ビエンナーレ2025鑑賞会レポート

2026/03/11

目を使わない芸術体験

「東京ビエンナーレ」は、東京のまちに国内外から多様なアーティストやクリエイターが集結し、まちに深く入り込み、地域の方々と一緒に作り上げていく、2年に1度の国際芸術祭である。3回目の今回は2025年10月17日から12月14日まで東京北東部の6エリアで開催された。
 「いっしょに散歩しませんか?」をテーマに、まちを歩く芸術祭としての魅力を探究するイベントの一つとして、目をつかわない芸術祭体験~「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」のアテンドと東京ビエンナーレをきく~が、12月10日に催された。

このプログラムは、視覚障害者を含む多様な参加者がアートを楽しめる場を創出することを目的に、
都市空間に設置された作品を体験し、感覚を共有することで、アートの新しい楽しみ方を探る鑑賞会である。案内役はダイアログ・イン・ザ・ダーク所属のスタッフ全盲の木下路徳(きのっぴぃ)さんと多くの視界が閉ざされている佐久間麻理子(まりっぺ)さん。11名の参加者それぞれもコミュニケーションがしやすいように自身が呼んで欲しい“あだ名”を決め、共に八重洲・京橋エリアにある鈴木昭男さんの《『点音(おとだて)』in 東京ビエンナーレ 2025》と与那覇俊さんの《太太太郎 2023》を鑑賞し、耳をそばだて、普段とは違う感覚を呼び覚ます体験をした。

事前オリエンテーションの様子

目を閉じて、音に身をゆだねる45秒

まず体験したのは、鈴木昭男さんによるサウンドアート《『点音(おとだて)』 in 東京ビエンナーレ 2025》。参加者が定められた場所(ポイント)で風景を感じながら耳を澄まして感覚を開くプロジェクト。開始直後は「何を感じればよいのかわからない」という戸惑いの声が多かったが、後半になると「風や温度を感じた」「季節を想像した」といったコメントに変化。視覚を閉じることで、聴覚や触覚が研ぎ澄まされ、都市の雑踏が音楽のように立ち上がる。「普段は気づかない音が、こんなに豊かだと知った」という声に、この体験の価値が凝縮されている。

サウンドアート《『点音(おとだて)』 in 東京ビエンナーレ 2025》を体感する参加者と感想を聞く木下さん

夢の世界のような色彩~八重洲口で出会った巨大作品

次に訪れたのは、東京駅八重洲口に広がる与那覇俊さんの《太太太郎 2023》。巨大な床面作品は、細かな文字、ダジャレなどが鮮やかな色彩で混在し、作家の脳内をそのままプリントアウトしたような印象を与える。遠目には幾何学模様のようだが、近づくと落書きのようにも見える。参加者からは「大きなコマ割り漫画のよう」「夢の世界のような色使い」「作家の方の頭の中に入ったような鑑賞体験だった」といった様々な感想が出た。

東京駅八重洲口の床面に広がる作品  Photo by YUKA IKENOYA (YUKAI)
作品《太太太郎 2023》の近影

11人いれば11通りの解釈

その後、ミーティングルームで、それぞれの感想をディスカッションする時間が設けられた。「他の人の言葉で、自分の理解が深まった」「分からなくていいという許容が、自由な鑑賞につながった」など、多様な感覚が交差し、アート鑑賞に「正解」はないと感じられる意見が出た。

作品の感想を語り合う参加者のみなさん

案内役のおふたりに聞いた“気づき”

案内役のおおふたりに話を聞いて印象的だったのは、当日の鑑賞会の中で見えてきた「ちょっとした気づき」だった。

今回のように私たちと一緒に場を歩くことで「視覚障害者がこうするともっと安心して動けるのでは、といったポイントが自然に認識されたのではと思う」「当事者が企画の段階から一緒に考えられると、より楽しめる場になるのでは」と話していた。

視覚障害者向けの鑑賞プログラム自体はあっても、参加のイメージが持ちづらい人も多いという。そのため、情報発信については、短い紹介音声や動画、体験の様子を気軽に伝えるコンテンツがあると 「どんな感じなのだろう?」という事前理解につながり、参加しやすくなるのではといった話があった。

また、どんな取組も続けるには工夫が必要で、小さく始めたり、できる範囲で取り組んだりすることに意義があるとも。佐久間さんからは「今、自分たちのこういった取組がすぐに叶わなくても、例えば10年後、20年後、50年後、100年後に障害がある人たちがさらに生きやすくなっているというのが、今の私たちがやっていることかもしれないですね」と。今回のような取組を少しずつ重ねていくことが未来につながることだと実感することとなった。

作品解説を聞く木下さんと佐久間さん
集合写真

案内人プロフィール

木下路徳さん(きのっぴぃ):全盲のアテンド。16歳で失明後、2004年からダイアログ・イン・ザ・ダークアテンドとして活動。案内の柔軟性と対話力に定評。
佐久間麻理子さん(まりっぺ):弱視のダイアログ・イン・ザ・ダークアテンド。自身の見え方を共有しながら、参加者と共に新しい鑑賞体験を創出。

左から佐久間さん、木下さん、ダイアログ・イン・ザ・ダーク志村さん